“こんまり®︎流の片づけを通して本当に大切なモノと出会えた” と語る人々を取材する連載企画:「片づけで人生が変わる」を解き明かす。第2回となる今回は、片づけコンサルタントの堀内明美さんにお聞きしました。こんまり®︎メソッドの本質的な価値をお届けします。
今回インタビューをさせていただいた堀内明美さんは、2015年にこんまり®メソッドを本格的に学び、自身の片づけを終えました。どのようなきっかけで片づけに興味を持つようになったのか。
その背景には、2005年に出産した2人目のお子さんのことが関係していました。のちに軽度発達障害を医師から告知され、小学校にあがるといじめや差別に遭い、堀内さん自身も重度のうつ病を発症、家庭崩壊に至ってしまったというのです。
「生きていたらいけないの?」と泣き叫ぶ息子。
こんな毎日を終わらせたい。私たち家族を苦しめるすべてのコトを消し去りたい。私にできることは何?
そう考えるうちに、「生活基盤である家の中をスッキリさせよう」と思うようになりました。家族が外で受けるストレスを癒す場所として「家」を整え、いつも安らぎと笑顔に満たされた場所にしたい。そこで、最短で完璧に片づけられる方法を探していたところ、『こんまり®︎流片づけ講座』を見つけたんです。
当時、一体何が堀内さん家族の身に起こったのか。
一通りの出来事を伺うと「本当にそんなことが……?」と、耳を疑うようなエピソードが次々と語られ、私たちは言葉を失ってしまいました。
しかしその後、堀内さんは『こんまり®︎流片づけ』のおかげで人生が楽しくなり、生きる喜びを鮮やかに実感できるようになったと話してくれました。
3ヶ月を要した片づけでしたが、途中で「すごく気持ちが軽い」「最近息子が泣いていない」「明るい話題が増えてきた」ということに気づきました。いじめる側の子どもたちや辛い言葉を投げかける大人たちに対しても、怒りの感情がいつの間にか消えてなくなっていたのです。
『こんまり®︎流片づけ』は部屋の片づけを通して心の中も片づけるものなのだと、早い段階で実感できたことが大きかったのだと思います。私はうつ病から解放され、子どもには笑顔が戻り、何もかもが光り輝き出しました。正直なところ、ここまでの心の変化に私自身も驚いています。
堀内さんの表情には、確かに幸せそうな笑顔が浮かんでいました。
このようなエピソードは、こんまり®メソッドを初めて知る読者の方にとっては信じられないお話かもしれません。「家の中を片づけただけなのに、なぜ人生がそこまで変わるのだろうか?」と。
前回の外山さんのインタビューを含め、不思議な何かがあることは確かです。そこで私たち編集部は独自の仮説をもとに、この連載企画を通して検証を試みることにしました。
- 私たちは社会や家庭、世間体からの「抑圧」を感じているのでは?
- 私たちは「モノとの対話」を通じて抑圧から解放されるのかもしれない
※こんまり®︎流片づけ法では、そのモノを触ったときの自身の感情を感じたり、モノを尊重して感謝の言葉をかけたりしながら片づけを進めます。
2つの仮説をもとに今回のお話をもう一度、読者の皆さんと振り返ってみたいと思います。
堀内さん自身とご家族が平穏を取り戻した背景に、モノとの対話を通じた抑圧からの解放はあったのだろうか。心に編み込まれた言葉の一つひとつを紐解きます。
“好き” を纏うことで思い出した、私の心が喜ぶ瞬間
──堀内さんは自分や家族を癒すための手段として、家の中を片づけようと考えたわけですよね。お花を飾ったり、香りを楽しむなど家を心地よくする方法は色々ある中で、片づけをしようと思った理由は何だったのでしょうか?
お花や香りも暮らしの中で大切にしているんですよ。実はそういった資格を持っていたり、仕事をしていたりもするので。ずっと居心地のいいサロンのような場所を作りたいと思っていたので、心を癒し、安全な場所を作るために必要なことは色々と試してきました。
理想の家ってどういうものだろう? と雑誌やインターネットで色々な画像を見ていた時、ふと『こんまり®︎流片づけ講座』が目に入ったんですよね。片づけに興味を持ったのは、それまで「収納」や「模様替え」が中心で、「片づけ」は本格的にしたことがなかったから。
直感みたいなものも働いて、講座を受けてみようと思いました。たまたま講座の会場が自宅から自転車で15分の距離だったのも背中を押しましたね。
──こんまり®メソッドを学んでみて、どんな感想がありましたか?
こんまり®︎流片づけのイロハを最初に教わったタイミングで、「これは理に適っているな」と思いました。だから実際に自分もこの方法で「家」を片づけようと思えたというか。
──理に適っている、とは?
講座中に自分のクローゼットの中にある服を思い出してみたんですね。すると確かに、心がときめくもの・ときめかないものがあることに気がついたんです。あの服は値段が高かったから取っておこう、みたいな。収納はできていても家の中が片づいていると感じられないのは、そこに理由があったんだなと発見がありました。
──それで実際に取り組まれたわけですね。
こんまり®メソッドは、「衣類→本類→書類→小物類→思い出の品」と順に片づけを進めます。それも “全出し” が基本なので、まずは家の中にある服をすべて自分のベッドの上に山積みにして、一つひとつ「ときめくかどうか?」を基準に片づけを始めました。すると2週間もしないうちに効果が現れ始めたんです。
──効果というのは?
自分がときめくと思えるストッキングがあって、丁寧に手でシワを伸ばして収納したんですね。それを身につけた瞬間に心の底から喜びがあふれてきて。高級な新品のストッキングをはいた時のような、心が踊る感じがあって「これやばい……!」ってなった。
それまでの私は心を閉ざしているような状態だったので、自分が本当に好きなものに触れて身体で感じること自体が久しぶりの感覚だったのかもしれません。自分の “好き” を纏うことの喜びを味わった瞬間でした。
「ときめき」って何? 向き合い続けて出した私の答え
──2週間でその体感があったということは、3ヶ月の片づけ期間中にはもっと色々な変化を感じられたのではないでしょうか?
「感謝して手放す」というのがこんまり®メソッドなのですが、実際に自分で体験してみるとその効果の大きさに驚きました。早く終わらせようとゴミ袋に不要なモノを投げ入れていくプロセスとはまったく別物です。
一つひとつのモノに対して「ときめくかどうか?」を問いかけながら片づけをして、3ヶ月が経つ頃には世界が一変していました。自分を許し、人を許せるようになっていた。
私のうつ症状も治まり、夜中に息子が泣き叫ぶこともなくなった。急な変化というよりは、グラデーションのように緩やかな変化だったように思います。
──何が堀内さんの身に起こったのでしょうか?
最初にすごく色々なことを考えたんですよね。ときめくって何だろう。好きっていうことでいいのかな。じゃあ手放すものは嫌いなモノっていうこと? じゃあ何で私はそのモノに対して「嫌い」って思うんだろうって。
自問自答するうちに見えてきたのは、嫌いなモノには嫌な思い出や記憶が結びついてしまっているんだなということ。この服はうつ状態で苦しくて悲しかった時によく着ていたものだ、この服を見ると「あの言葉」「あの表情」「あの光景」が蘇ってくる……。
それに対して気持ちに蓋をしたりゴミ同然に投げ捨てるのではなく、向き合う。なぜあの人はあんな言葉を私に吐いたんだろう。あの出来事はどうして私の身に起こったんだろう。
そうやって冷静になって考えていくと、あれは私に強くなれってメッセージだったのかな、あの人にもきっと誰にも言えない悲しみや苦しみがあって、たまたま私たちが目の前にいたから捌け口になってしまったのかも……と考えられる余裕が生まれました。
──モノと向き合うことで、過去の出来事も含めて「感謝して手放す」ことができたんですね。
そうかもしれません。私たちは世界一不幸な人間だって思い込んでいたけれど、同じくらいあの人たちも辛い気持ちや怒りを抱えていたのだとしたら。そう考えるうちに心の棘がすーっと抜けて、気持ちが軽くなり、いつの間にか平穏な生活を取り戻していたんです。
こんまり流片づけは、私にとって本当に魔法だった
──モノに染み込んだ過去に向き合って感謝することで、癒しのプロセスもあったようにお話を聞いていて感じました。
本当にそうですよね。世の中に対する捉え方が変わったことで、子どもの心まで平穏になったことは良い意味で想定外のことでした。私の感じるストレスが減ったことで、子どものストレスも解消されたのかもしれません。
あともう1つ興味深いのは主人との口論がなくなったことです。実はこんまり®メソッドで家の中を片づけることに、主人は100%同意だったわけではなかったんです。具体的には「書類は全捨て」の方針には納得できなかったようで。
そこで私たちは「持ち主別」に片づけをする方針を取ったんです。これもメソッドの一部なのですが、これにより私たちの関係は良い方向へ動き始めました。
同時に私の中では他人軸から自分軸に変わるような感覚があったように思います。当たり前ですがときめきのポイントは人によって違いますから、これも良い意味で「私は私、主人は主人」と考えられるようになったのだと思います。きっとこのプロセスも「相手を許す」という境地へ至るまでの大切な出来事だったのかもしれません。
──最後に改めて、片づけを終えた感想を教えてください。
こんまり流片づけは結果的に家を片づけるものだけど、本当の価値は「生きる幸せに気づく」ということにあると思っています。今あるものを手放せないのは、「過去の執着」か「未来への不安」のどちらかだとこんまり®メソッドでは教わります。私の場合はこの両方にとらわれていたような気がします。
モノとの対話を3ヶ月間繰り返すことで自分を癒し、自分軸で幸せを感じられるようになり、それがいつの間にか私を苦しめていた抑圧から解放してくれた。これが私の身に起こったストーリーです。
こんまりさんの本のタイトルに『人生がときめく片づけの魔法』とありますが、本当に私にとっては魔法がかかったような、そんな3ヶ月だったなぁと今でも感じています。
取材・執筆・編集:株式会社ソレナ