こんまり®︎メソッドによって “本当に大切なモノと出会えた” と語る人々を取材する連載企画:「片づけで人生が変わる」を解き明かす。第5回はこんまり®︎流 片づけコンサルタントの吉良悠子さんをインタビュー。こんまり®︎メソッドの本質的な価値を紐解きます。
今回お話を聞くのは、二児の母であり、個人事業主としても精力的な活動を続けてきた吉良悠子さん。
近藤麻理恵が出演するドキュメンタリー番組『KonMari〜人生がときめく片づけの魔法〜』を観たことをきっかけに、人生を変えるための片づけがしたいと考えるようになったといいます。
2019年1月にNetflixでたまたま麻理恵さんの番組を見つけて、全8本を一気に観てしまいました。片づけを通して人生を変えていく。さまざまな人たちの舞台裏が描かれていて、すごく面白かったです。
その頃の私は個人事業主として働いていて、仕事の量こそ多かったものの収入は満足できるレベルになく、何のために仕事をしているんだろうと悩んでいた時期でした。家族からも、今は忙しいだろうから声はかけないようにしようと腫れ物のように扱われていて。心のどこかで「私も人生をときめかせたい」と思っていたのかもしれません。
改めて当時の様子を振り返ってもらうと、いつも心の中では
- もっとお金を稼ぎたい、稼がなきゃ
- 何者かになりたい、代名詞の肩書がほしい
という、2つの思いがぐるぐると巡っていたというのです。
不協和音が生じ始めたのは2015年頃。
日本国内でもSNSが盛んになり、個人の自由な発信が広まりつつある中で、吉良さんは「他人のこと」が気になりだしたと話してくれました。
特に心をざわつかせたのは、高校時代の友人が独立したことをSNSでたまたま知った時だったそうです。
吉良 私は大学卒業後にIBMへ就職し、出産と同時に退職をしました。その後は親族が営むクリニックで受付の仕事を始めたのですが、同級生が独立をしたという投稿をSNSで見かけてからは「前職を辞めずにいたら、私の年収は今頃どうなっていた?」「私も独立してもっと稼げるようになりたい」と考えるようになっていました。
そして2017年。吉良さんは税務署に開業届を提出して、個人事業主として新たなスタートを切りました。ビジネスのいろはを教えてくれる先輩にも出会え、仕事も高い報酬ではないけれど紹介してもらえ、順調なすべり出し。
ところが実態は目まぐるしい忙しさで、頭の中は思考停止状態。「あの時の私は、ときめく仕事をしているかどうかを判断する余裕もありませんでした」と吉良さん。
「私は私の価値観で生きればいいのに、なぜあれほど他人の生き方や働き方が気になっていたのか。こんまり®メソッドを使って片づけを終えた今、ようやく自分らしい生き方が見つけられたと思っています」
迷い続けた吉良さんが、片づけを通して出会った本当の自分。インタビューと共にその軌跡を辿ります。
年収1000万円を稼がないと、ここに住む資格がない…?
──高校時代の友人が独立したことを知り、吉良さんも同じ道に憧れを持ったというお話がありました。当時の様子をもう少し詳しく教えていただけますか?
私は2009年に第一子を出産していて、そのタイミングで会社を辞め、家から通える距離のクリニックで働くようになりました。その後も第二子の出産や育児とバタバタしていたので、自分の生き方や働き方を、他人と比較する余裕はそこまでありません。
前職で一緒に働いていた同僚のことを思い出して「仕事頑張ってるかな」と考えたり、自分も辞めずにいたらどんな人生だったかなと思うことはあっても、極端に比較することはありませんでした。
そんな日常に変化が起きたのは、SNSで他人のキラキラした様子が目に入るようになった2015年頃のことです。高校時代の同級生が自分でビジネスを始めたという投稿が流れてきて、すごく心がざわついたんですよね。
──もっと稼げるようになりたい、という表現がありましたね。
急に自分が許せなくなって自分を否定し始めました。年収1000万円くらいは稼がないと、この家に居たらいけない気がしてきたんです。
ちょうどリノベーションをしたタイミングで、理想の住まいを手に入れたと喜んでいた時期と重なったのも影響していると思います。こんなに素敵な住まいを手にしたのに、自分の収入は本当にこれでいいの? と。
しかも住んでいたエリアがまた富裕層が多い傾向にあって、以前は気にならなかった自分と他人の収入の差ばかりを意識するようになっていました。
──その後、実際に独立をされましたね。
1〜2年は起業に関する勉強をしながら、人脈やネットワークを広げたり事業アイデアを探したりしていました。開業届を出したのは2017年です。ビジネスの先輩方にサポートをしてもらいながら、少しずつ仕事を増やしていました。
──どのようなお仕事をされていたのでしょうか?
依頼があれば何でもやっていましたね。講演活動をすることもあればメールマガジンの代筆をすることも。自分にできると判断したものはすべて断らずに受注していました。
その頃は本当に忙しくて、自分の仕事部屋はモノであふれ、家族と触れ合う時間もほとんどない状態でした。しかもクリニックで働いていた時よりも収入は下がっていて、自分でも何を目指しているのかわからなくなり、かなり迷走していたと思います。
仕事の書類を片づけながら、ときめきの棚卸しを
──独立から2年ほどが経ち、Netflixでこんまりのドキュメンタリー番組と出会います。2019年当時、どのような心境で番組を観ていたのでしょうか?
麻理恵さんの本を持っていたので、ときめきを基準に片づける手法は知っていました。でも「人生を変えるメソッド」と理解したのはNetflixがきっかけです。
確かに散らかった部屋を片づけたい気持ちはありましたが、それ以上に自分の生き方をもう一度整理したいという思いで番組を観ていました。機械のように目の前の仕事をこなす毎日だったので、自分が何にときめくのかを取り戻したかったんですよね。
ただそれも今だから言えること。当時は漠然と「変わりたい」「片づけたい」としか思っていなかったと思います。その状態から抜け出したいという自覚もなかったというか……。
──片づけに取り組んでみて、変化は感じられましたか?
書類の片づけを通して自分自身と向き合うことができ、大きな変化を感じました。仕事関係の書類がたくさんあったので、自分がときめく仕事は何かを再点検するきっかけになったんです。
ライティングの仕事は多かったけれどその道のスペシャリストになりたいわけじゃないし、マナー研修の仕事も大切だと思うけれど、強い興味があるかというとそうではない。そうやって棚卸しを進めました。
その時は「何者かになりたい」という気持ちもあったので、野菜ソムリエを目指していたりもして。だけど改めて「ときめくかどうか?」の視点で見ていくと、これまでの活動のほとんどにワクワクしていないことに気づいたんです。
「これだ!」というのはまだ見つからないけれど、この仕事はときめかないという判断はできるようになった。それが私にとって大きな一歩でした。
理想の住まいと、答えを外に求めたあの日
──2019年8月に片づけを終え、4年以上が経ちました。「稼ぎたい」「何者かになりたい」という思いはどうなりましたか?
おかげさまで自分軸を取り戻し、他人軸で「もっと稼がなくちゃ」と考えることもなくなりました。自分の価値観を大切にする、自分のときめきを大切にする。それでいいんだと思えるようになったんです。
それに気づけたのは、家の中が片づいて理想の住まいを取り戻したことが大きかったと思います。2015年にリノベーションをした際、家族で何度も話し合って理想の住まいを描き、実現させました。
家族4人でのんびりと過ごすリビングには、親子で並んで書き物や勉強ができるデスクを。キッチンには、ゲストを招いて自宅居酒屋を楽しめるカウンターを設置しました。
モノが散らかる中ですっかり理想の住まいが影を潜めていましたが、片づけを終えたことで忘れていた気持ちを思い出しました。「キッチンで子どもたちとわいわい料理を作りたい」というような、家族団らんのイメージを持ちながらリノベーションをしたんですよね。
自分が描いた “理想の住まい” をすでに実現していたのに、答えを外に外に求めていた。それに気づいたことで、他人軸には振り回されなくなりました。
──今では、片づけレッスン600時間以上の経験を持つシニアコンサルタントとして活躍されています。
これから先もまだまだやりたいことはありますが、1つ言えるのは「ここまで来れて幸せ」ということです。2019年のあの日、こんまり®メソッドを学ぶことを決めて本当によかった。
私にとっては幸せになる手段であり、人生を変えてくれたメソッドそのものです。これから先、仕事で悩むことがあっても「また片づければ大丈夫」という自信があるので、まっすぐに前を向ける。
これからも一生ものの考え方として、こんまり®メソッドを大切にしていきたいと思います。
取材・執筆・編集:株式会社ソレナ